ずいぶん前に、大木の根元に樹洞(うろ)を見つけたことがあって、しばらくの間、どうして、こんな穴ができるのだろうかと疑問に思ったことがありまして・・・。大木の根元のまるで洞穴のような大きな樹洞でした。

そんなある日、棚田で有名な筒賀の井仁(いに)という場所から天上山へ登る山道の脇で別の光景に出会いました。それは、大きな一本の倒木でした。薄暗い森に落ちる木漏れ日。辺りに満たされた緑の香り。肌を包むような濃い湿気・・・。その倒木は緑の苔(コケ)で覆われていて、朽ちかけていました。そして、その倒木を骸(むくろ)として、倒木をまたぐように根を張った若木が勢いよく天を目指していました。その時ふと諒解(りょうかい)したのです。ああ、こうしてあの樹洞はできるんだと・・・。

  若木は、どんどん大きな木へと成長していきます。倒木の持つ栄養分も吸収しながら、空へと枝を広げます。そして、いつしか大木となった時には、苔むした倒木は朽ち果て、そこにぽっかりと穴が開いて、樹洞ができるのです。森の奥で静かに、しかも長い歳月をかけて、世代を受け継ぐんですね。そこには、悠久の時の流れを超えた「生命のドラマ」があるのです。  昨年も、私どもの各教室のいくつかで、生徒のお父様やお母様が亡くなられるという悲しい出来事に出会いました。ご病気の場合や事故の場合、いろいろな状況の中でも一様にそれぞれ悲しみがあり、もちろん、その子である私どもの生徒も深い悲しみの中で日々を過ごします。そしてその心をゆっくりとケアしながら、親の心を心として、子供たちを見守っていくことも私たちの大切な仕事です。

 「親はあなたの中で生きている。だから頑張ろうな。」私はそんな言葉を軽薄な慰めのつもりで子供たちに発しません。しっかりと本当に、命を子供たちに残して、本当に子どもたちの中で親は生きていると、そう思っているんです。そして、私たちは厳粛な「命のリレー」をして、今ここに生かされているんだから。「命いっぱい」に生きなければと思うのです

 樹洞は、命の跡です。その跡は、やさしく虫たちや小動物にあたたかくて穏やかな小さな住処(すみか)を与えていきます。そうやって、時は流れ、そうやって、命は受け継がれていくのです。                         yjimage河浜一也